設備投資を考えている中小企業にとって、今いちばん動きの大きい制度が「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」です。従来の新事業進出補助金とものづくり補助金が一本化された制度で、令和8年6月29日に第1回の公募要領が公開され、8月31日から申請の受付が始まりました。応募締切は9月30日18時とされています。残り時間はわずかですが、要件を知っておくこと自体が次回以降の準備になりますので、要点を整理します。

制度の概要

申請枠は3つに分かれています。補助上限額はいずれも「賃上げ特例」を使った場合に引き上げられる仕組みです。

申請枠補助上限額補助率
革新的新製品・サービス枠2,500万円(賃上げ特例で3,500万円)中小1/2、小規模2/3
新事業進出枠7,000万円(賃上げ特例で9,000万円)1/2
グローバル枠7,000万円(賃上げ特例で9,000万円)中小2/3

申請には「GビズIDプライム」アカウントが必要です。まだ持っていない事業者は、取得手続きから始めることになります。

3つの申請枠の違い

第1回公募のため、本制度としての公式採択事例はまだありません。以下は公募要領の定義と、旧・新事業進出補助金の公式イメージ例を中心に整理したものです。

1. 革新的新製品・サービス枠

顧客に新しい価値を届けるための、新製品・新サービスの開発を支援する枠です。上限は従業員規模に応じて750万〜2,500万円(賃上げ特例で最大3,500万円)、下限は100万円。実施期間は交付決定から10か月以内です。

機械装置・システム構築費が必須です。建物費は使えません。補助率は中小が2分の1、小規模・再生事業者は3分の2です。

対象になる考え方

自社の技術を活かして、顧客に新しい価値を提供する新製品・新サービスを開発することです。「日本初」である必要はありません。ただし、同業の中小企業ですでに相当程度普及しているものは対象外です。地域性が高い業種では、同一地域の同業他社で普及済みかも見られます。

対象にならない例(公募要領)

  • 既存製品・サービスの生産プロセスを改善するだけ(効率化・省人化のみ)
  • 機械やシステムを入れるだけで、新製品・新サービスの開発がない
  • 同業ですでに相当程度普及している製品・サービスの開発

想定される取組のイメージ

既存の事業補助事業で取り組む内容ポイント
金属部品の受託加工5軸加工機を導入し、従来できなかった薄肉・複雑形状の精密部品を新製品として開発する設備導入そのものではなく、新しい製品の開発がある
受注生産のソフトウェア開発自社の現場知見を活かしたBtoB向け生産管理サービスを新規に開発・提供する顧客に新しい価値を提供するサービス開発である
多店舗飲食急速冷凍・真空包装で職人の味を再現し、他店や小売に卸せる半製品を新たに開発する厨房機器の入替えだけでは足りない。新しい商品の開発が必要

※ 一般的な厨房機器の入替えや、既存ラインの単なる更新は、この枠では通りません。

2. 新事業進出枠

既存事業とは違う市場へ、自社にとって新しい製品・サービスで進出する枠です。上限は従業員規模に応じて2,500万〜7,000万円(賃上げ特例で最大9,000万円)、下限は750万円。実施期間は交付決定から14か月以内です。

機械装置・システム構築費か建物費のいずれかが必須です。建物費が使えるのはこの枠とグローバル枠だけです。補助率は中小(小規模・再生含む)が2分の1です。創業1年未満は対象外です。

ここでの「新規性」は、日本初・世界初ではなく、自社にとって初めてであることです。第1回の公募開始日(令和8年6月29日)以降に初めて取り組むものが、新規性ありとみなされます。

「新たな市場」は、既存事業では対象にしていなかった顧客層(法人/個人、業種、行動特性など)です。

対象にならない例(公募要領)

  • 既存製品の増産
  • 過去に作っていた製品の再製造
  • 製法を機械に置き換えるだけ
  • 性能に有意な差がない新製品
  • 顧客層が同じメニュー追加(需要の置き換え)
  • 既存市場の一部だけを切り出す
  • 商圏を変えるだけ(A駅前からB駅前へ、など)

公式のイメージ例(旧・新事業進出指針の手引き)

中小企業庁が示した「指針を満たす例」です。推奨事例ではなく、同じ計画でも不採択になり得ると注記されています。

業種既存事業新規事業市場が新しい理由
製造業ガソリン車部品半導体製造装置部品自動車業界と半導体業界で顧客層が違う
製造業航空機部品医療機器部品航空機業界と医療機器業界で顧客層が違う
建設業注文住宅の建設オーダーメイドの木材家具住宅居住者と家具購入者で顧客層が違う
印刷業販促物の印刷食堂等の内装工事チラシを発注する事業者と食堂の運営会社で顧客層が違う
情報サービス業アプリ・WEB開発地域特産物を扱う商社型ECの運営サイト制作の依頼者と、自社商品を掲載したい事業者で顧客層が違う

公募要領が挙げる「該当しない」側の公式例は、アイスクリーム店がかき氷を出す、バニラだけに特化する、駅を変えて同じ店を出す、取引先の要請で部品を小型化する、といったものです。製品が変わっても顧客が同じなら、この枠には入りません。

3. グローバル枠

自社の製品で、自発的に新しい海外市場を開拓するために、国内の製造拠点などを強化する枠です。
これについては、今回は省略します。(必要であればお問い合わせください)

実務上の影響

見落とされがちなのが賃上げ要件です。補助事業終了後3〜5年で、付加価値額を年平均4.0%以上、従業員1人あたりの給与支給総額を年平均3.5%以上増やし、さらに事業場内最低賃金を地域別最低賃金より30円以上高い水準に保つことが求められます。

高知県の地域別最低賃金は令和8年10月29日から1,086円になります。単純に当てはめれば、事業場内で最も低い時給を1,116円以上にしておく必要があるということです。最低賃金の引き上げ対応と補助金の要件が、同じ方向を向いていることになります。

※ 賃上げ目標を達成できなかった場合、補助金の返還を求められることがあります。設備投資の効果と人件費の見通しを、同じ計画の中で考えておく必要があります。

※ 従業員が0名の事業者や、新事業進出枠における創業1年未満の事業者は対象外とされています。自社が対象になるか、早い段階で確認してください。

もう一点、補助金は原則として後払いです。設備の代金はいったん自社で支払い、実績報告と検査を経てから入金されます。補助率が2分の1なら、少なくとも一時的には投資額の全額を用意しなければなりません。採択されてから資金繰りに詰まる例は珍しくないため、金融機関への相談は申請と並行して進めておくのが安全です。

今すべきこと

第1回に間に合わせるなら、GビズIDプライムの取得状況の確認が最優先です。発行までに日数がかかる場合があるため、未取得であれば今回は見送り、次回に備えるという判断も現実的です。

そのうえで、直近の賃金台帳で事業場内最低賃金がいくらになっているかを確認しておきましょう。ここが地域別最低賃金ぎりぎりの水準だと、補助金の要件を満たすために追加の賃上げが必要になります。設備投資の内容と、それによってどれだけ生産性が上がるのかを数字で説明できるようにしておくことも欠かせません。

まとめ

第1回の締切は9月30日18時です。今回の申請が難しくても、賃上げ要件は今後も続く可能性が高い設計になっています。最低賃金の引き上げと合わせて、自社の賃金水準を一度点検しておくことをおすすめします。

※ 締切や要件は変更されることがあります。申請前に必ず事務局サイトで最新の公募要領をご確認ください。

出典

本記事は掲載時点の制度に基づく内容です。制度は改正される場合があり、実際の取扱いは個別の状況により異なります。具体的な判断が必要な場合は、別途ご相談ください。